小型マイコンボードRaspberry Pi Picoでは、複数のプログラミング言語を利用できます。代表的なものに、低レベル制御が可能なC/C++、初心者に優しいMicroPython、派生版のCircuitPython、近年注目のRust、そして意外なJavaScriptがあります。本記事ではこれら主要言語について、学習難易度・IDE/開発環境・用途適性・ライブラリーの充実度・遊びやすさ/将来性・読者レベル別のおすすめ、といった観点から比較・紹介します。
MicroPython(マイクロパイソン)
学習難易度:易しい(★☆☆) — Python準拠の文法で、初学者でも取り組みやすい軽量実装。Picoは公式MicroPythonポートがあり、入門の定番です。
開発環境:UF2を書き込んで準備完了。Thonnyを使えば接続即実行・REPL・ファイル転送まで一気通貫。VS Code拡張での開発も可。
適した用途:教育、趣味、プロトタイピング。LED/GPIO/センサーなどを素早く試す用途に好適。厳密なリアルタイムや高負荷処理は不得手。
ライブラリー/ドキュメント:基本モジュールが充実。Pico向け入門書・チュートリアルが多数。Adafruit系の一部ドライバも流用可能。
遊びやすさ・将来性:REPLで“すぐ動く”体験が魅力。公式サポートも厚く、教育分野で安定普及。
おすすめ:プログラミング初心者〜中級者。まずはここから。
C/C++(公式SDK / Arduino IDE)
学習難易度:高い(★★★★★) — ポインタ/割り込み/メモリ管理など低レベル知識が必要。習熟すれば最高性能と緻密制御を獲得。
開発環境:公式C/C++ SDK+CMake。現在はVS Code公式拡張でプロジェクト生成・ビルド・フラッシュ・デバッグが簡便。あるいはArduino IDEで手軽にC++。
適した用途:製品開発、厳密タイミング、PIO活用、信号処理、ゲーム移植など性能最重視の案件。
ライブラリー/ドキュメント:公式SDKとPico Examplesが網羅的。Arduino経由なら膨大な既存ライブラリ資産が使える。
遊びやすさ・将来性:お手軽さは劣るが、組み込みの王道スキル。キャリア価値は最大。
おすすめ:中級者〜プロ。最終的な量産/本番志向なら必須。
CircuitPython(サーキットパイソン)
学習難易度:易しい(★☆☆) — MicroPythonベースで超初心者フレンドリー。
開発環境:UF2を書き込むとPicoがUSBストレージ(CIRCUITPY
)としてマウント。Muエディタや任意のテキストエディタでcode.py
を保存するだけで自動実行。
適した用途:教育/ワークショップ、Adafruit製センサー活用、クイック検証。
ライブラリー/ドキュメント:Adafruitの数百本規模のデバイスライブラリと作例記事が強力。
遊びやすさ・将来性:“保存=即実行”の快適体験。教育・ホビー分野で盤石。
おすすめ:超初心者〜中級のホビイスト、授業導入。
Rust(ラスト)
学習難易度:高い(★★★★) — 所有権/借用の概念で学習コストは高め。ただし高性能×メモリ安全を両立。
開発環境:VS Code+Rust Analyzer+Cargo。RP2040向けHAL(rp2040-hal
)やembedded-hal
系ドライバを活用。デバッグはprobe-rsやgdb等。
適した用途:高信頼・並行処理・安全性重視の組み込み。先進的IoT。
ライブラリー/ドキュメント:HAL/ドライバが着実に拡充中。公式書籍/Embedded Rust Bookなど学習資源も増加。
遊びやすさ・将来性:整備途中だが将来性大。通れば安心のコンパイル時検証。
おすすめ:上級者、安全志向エンジニア。キャリアの武器化に。
JavaScript(Kaluma等)
学習難易度:中(★★★) — Webエンジニアには親しみやすい。初心者にはPython系の方が楽。
開発環境:Kaluma(Pico用JSランタイム)UF2+Kaluma CLIまたはWeb IDE。VS Codeで編集→コマンドで転送。
適した用途:Web開発者の学習/趣味。イベント駆動でGPIOやI2Cを手早く試す。
ライブラリー/ドキュメント:基本APIは整備、周辺デバイスの広範サポートは発展途上。
遊びやすさ・将来性:ニッチだが面白い領域。今後の拡充に期待。
おすすめ:JS経験者のブリッジ用途。
主要言語の比較表
言語 | 習得難易度 | 推奨IDE/環境 | 適した用途 | ライブラリー | おすすめ層 |
---|---|---|---|---|---|
MicroPython | 低 | Thonny, VS Code | 教育/趣味/試作 | 充実(入門資料多数) | 初心者〜中級 |
C/C++ | 高 | VS Code+SDK, Arduino IDE | 製品/性能重視 | 非常に豊富 | 中級〜プロ |
CircuitPython | 低 | Mu, 任意エディタ | 教育/クイック検証 | 非常に豊富(Adafruit) | 超初心者〜中級 |
Rust | 高 | VS Code+Rust Analyzer | 高信頼/安全性重視 | 着実に拡充 | 上級者 |
JavaScript | 中 | Kaluma CLI/Web IDE | Web出身の学習/趣味 | 限定的 | JS経験者 |
目的/読者別の最適解
- 完全初心者・教育:MicroPython または CircuitPython(セットアップ容易・教材豊富)
- 趣味でサクッと:MicroPython(必要に応じてCへ移行)
- Arduino経験あり:Arduino IDE + C++(既存ライブラリ資産を活用)
- 製品/高性能:C/C++(PIO・厳密制御・最適化)
- 安全性・最新技術志向:Rust(学習コストは高いが将来性大)
- Webエンジニアの橋渡し:JavaScript(Kaluma等でGPIO体験)
Raspberry Pi Picoは「どの言語でも書けば同じ動作」を目指せますが、開発体験・速度・可搬性は言語で大きく変わります。自分のレベルと目的に合うものから始め、必要に応じてステップアップしていくのが最短ルートです。まずはMicroPythonで“動かす楽しさ”を体験し、プロダクト化の段階でC/C++へ、さらなる安全性を求めるならRustへ――という流れが王道です。
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