【徹底比較】Raspberry Pi Pico vs Arduino・ESP32・STM32

Raspberry Pi Picoガイド

Raspberry Pi Picoはどの位置づけ?

Raspberry Pi Picoって結局どれくらい速いの?」「Arduino UnoESP32と比べてメモリや価格は?」――そんな疑問に答えるため、本記事では主要マイコンボードを

  • 値段
  • 性能(CPUクロック・コア数)
  • メモリ量(SRAM)
  • 用途(何に向いているか)
  • 主な開発言語

の5つの観点で横並び比較します。まずは一覧表とグラフで全体像をつかみ、そのあとでボードごとの特徴をじっくり解説していきます。番外編としてRaspberry Pi 5(小型PC/SBC)も併記し、マイコンとの違いも整理します。


比較対象と選定理由

  • Arduino Uno R3:電子工作の定番入門機。情報量と安心感が最大の魅力。
  • Raspberry Pi Pico:デュアルコアRP2040搭載。低価格とMicroPython対応で人気急上昇。
  • ESP32:Wi-Fi/BLE内蔵の高機能SoC。IoT用途の筆頭格。
  • STM32 “Blue Pill”(STM32F103C8T6):激安で32bit/72MHz。中級者の学習材として定番。
  • Adafruit Feather M4 Express:ATSAMD51(M4F)搭載。CircuitPython標準対応の上質ボード。
  • (番外)Raspberry Pi 5:マイコンではなくSBC。桁違いの性能とPC的な使い勝手。

主要スペック比較(クロック・メモリ・価格)

まずは、CPU・メモリ・価格をざっくり掴むためのスペック表です(価格は国内通販のざっくり相場イメージ)。

ボード名CPU / コア最大クロックSRAMフラッシュ無線目安価格(国内)
Arduino Uno R3ATmega328P(8bit)16 MHz2 KB32 KBなし約3,000〜5,000円(互換機:〜1,500円)
Raspberry Pi PicoRP2040(Cortex-M0+×2)133 MHz264 KB2 MB(外付けQSPI)なし※約500〜800円
ESP32Xtensa LX6×2240 MHz約520 KB(モジュール実装)一般的に4 MBWi-Fi / Bluetooth約1,000〜1,500円
STM32 Blue PillSTM32F103C8(Cortex-M3)72 MHz20 KB64 KB※なし約300〜800円
Feather M4 ExpressATSAMD51J19(Cortex-M4F)120 MHz192 KB512 KB + 2 MB(外付け)なし約4,000〜6,000円
Raspberry Pi 5(番外)Cortex-A76×4(64bit)2.4 GHz(LPDDR4X)4/8 GB(microSD/SSD)Wi-Fi / Bluetooth約11,000〜15,000円

※Picoの無線対応はPico Wのみ。Blue Pillのフラッシュは公式64KBですが、実チップが128KB動作する個体の報告もあります(製造ロット差)。


一発でイメージできる「ざっくり評価表」

初心者が気になるポイント(価格・性能・メモリ・難易度・用途・開発言語)を、感覚的にわかるようにまとめた表です。

ボード価格感性能メモリ難易度向いている用途主な開発言語
Arduino Uno中(互換機なら安い)かなり少ないやさしい電子工作の基礎、教材Arduino(C++風)
Raspberry Pi Pico激安中〜高多めやさしい〜ふつう学習全般、小〜中規模の制御MicroPython / C / C++ / Arduinoコア
ESP32安い多めふつうIoT、Wi-Fi/BLE、クラウド連携Arduino(C++)、ESP-IDF(C)、MicroPython
STM32 Blue Pill激安少なめむずかしい(中級者向け)STM32入門、レジスタ寄りの学習C(STM32CubeIDE 等)、Arduinoコア
Feather M4高め多めふつうPython中心の本格プロジェクトCircuitPython / Arduino(C++)
Raspberry Pi 5中〜高別次元(PC級)GBクラスふつう画像処理、AI、GUI、Web+GPIOPython / C / C++ / Node.js など

📈 グラフで見る「処理速度 × メモリ」

次のグラフは、横軸がCPUクロック(MHz)、縦軸がSRAM容量(KB)の散布図です。どのボードが「どのあたりのポジション」にいるか、感覚的につかむためのイメージです。

図:CPUクロック×SRAMの比較。左下にUno、中央付近にPicoとFeather M4、右上にESP32。Raspberry Pi 5は桁違いのためスケール外(番外扱い)。
  • 左下(低速・少メモリ):Arduino Uno ― 超入門向けのベーシック機。
  • 中央(中速・中〜大メモリ):Raspberry Pi Pico / Feather M4 ― バランス良好。PicoはSRAMがかなり多め。
  • 右上(高速・大メモリ):ESP32 ― マイコンの中では最上位クラス。無線内蔵でIoTに最適。
  • (スケール外):Raspberry Pi 5 ― マイコンではなく小型PC。用途が別物。

Arduino Uno ― 「まず動かす」安心の入門機

ざっくり性能★☆☆☆☆(低め)
メモリSRAM 2KB(かなり少ない)
価格約3,000〜5,000円(互換機なら〜1,500円)
主な用途LEDチカ、スイッチ、簡単なセンサー制御
主な開発言語Arduino言語(実体はC++)

ATmega328P(16MHz / SRAM 2KB / Flash 32KB)を搭載。規模の小さい制御に適し、教材・情報・ライブラリ・拡張シールドが非常に豊富で、トラブル時の解決が容易です。USBケーブル1本でArduino IDEから書き込めるので、「環境構築でもたつきたくない」初心者にとって安心感が大きいボードです。

ただしメモリが極小なので、LCD表示通信ライブラリを複数併用したり、大きめの配列を使ったりすると、すぐにメモリ不足にぶつかります。「電子工作の基礎を学ぶ」「C系の文法に触れる」といった目的には最高ですが、少し大きめのプロジェクトに進むなら、PicoやESP32のほうが余裕があります。


Raspberry Pi Pico ― 低価格×高性能×MicroPython

ざっくり性能★★★★☆(中〜高)
メモリSRAM 264KB(この価格帯ではかなり多い)
価格約500〜800円
主な用途LED・ボタン・センサー・LCDなどの制御全般
主な開発言語MicroPython / C / C++ / Arduinoコア

自社開発のRP2040を搭載(Cortex-M0+×2 / 133MHz)。SRAM 264KBはこの価格帯として非常に大きく、外付けQSPIフラッシュ 2MBも標準搭載されています。

USBマスストレージ経由のUF2でドラッグ&ドロップ書き込みができ、MicroPythonでの学習がとてもスムーズです。Pythonが書ければそのままハード制御に入れるので、「まずはPythonで始めたい」人と相性が良いボードです。C/C++やArduino互換コアでも開発可能で、成長してからも継続して使えます。

RP2040独自のPIO(Programmable I/O)は、ソフトウェアだけで高速な疑似周辺機能を実装できるユニークな武器です。自作プロトコルや高速LED制御など、「普通のマイコンではタイミングが厳しい処理」も、比較的簡単にこなせます。

注意:標準のPicoは無線非搭載です。Wi-Fi/BLEが必要な場合はPico Wを選びましょう。


ESP32 ― 無線内蔵の万能選手(IoTの主役)

ざっくり性能★★★★★(高い)
メモリSRAM 約520KB
価格約1,000〜1,500円
主な用途Wi-Fi/BLEを使ったIoT、クラウド、スマホ連携
主な開発言語Arduino(C++)、ESP-IDF(C)、MicroPython

Xtensa LX6デュアルコア 240MHzSRAM約520KB。多くの開発ボードが4MBフラッシュを実装しています。Wi-Fi / Bluetoothを標準搭載し、Arduino IDE / ESP-IDF / MicroPythonなど、選べる開発環境が非常に充実しています。

オンボードでネットワーク機能を完結できるので、WebサーバMQTTスマホアプリとのBLE連携など、「ネットにつながるガジェット」を作るには最有力候補です。一方で消費電力はUnoやPicoより大きめなので、電池駆動では深いスリープウェイク周期をうまく設計する必要があります。

ポイント:「最初から無線を使いたい」「クラウドサービスと連携したい」なら、価格と機能のバランスでESP32が第一候補になります。


STM32 “Blue Pill” ― 激安だが扱いは中級者向け

ざっくり性能★★★☆☆(中)
メモリSRAM 20KB
価格約300〜800円
主な用途STM32のレジスタ寄り学習、低価格試作
主な開発言語C(STM32CubeIDE等)、Arduinoコア

STM32F103C8(Cortex-M3 / 72MHz / SRAM 20KB / Flash 64KB)。数百円で入手できる圧倒的コスパのボードです。

ただし工場出荷状態ではUSB書き込みに非対応で、ST-LINK(SWD)UARTブートローダで書き込むのが前提になります。Arduinoコア(STM32duino)でも動かせるものの、クロック設定やピン配置など、最初の一歩でつまずきやすく、完全な初心者よりは「2枚目以降」向きです。

豆知識:一部の個体は実フラッシュ128KB動作の報告もありますが、あくまで公式仕様は64KB前提です。


Adafruit Feather M4 Express ― 高性能×CircuitPython標準

ざっくり性能★★★★☆(高)
メモリRAM 192KB(多め)
価格約4,000〜6,000円
主な用途Python中心の本格開発、プロトタイピング
主な開発言語CircuitPython / Arduino(C++)

ATSAMD51J19(Cortex-M4F)120MHzRAM 192KB / Flash 512KBに加え、基板上に2MBの外付けフラッシュを搭載しています。UF2ブートローダでUSBマスストレージとしてマウントされ、出荷時からCircuitPythonが利用可能です。

FeatherWingによる拡張も豊富で、バッテリ充電回路も内蔵。価格はやや高めですが、「きれいな基板」「充実したドキュメント」「快適なPython環境」を求める人には非常に心地よい選択肢です。


番外 : Raspberry Pi 5 ― これはもう“小型PC”

ざっくり性能PCクラス(マイコンとは別世界)
メモリ4GB / 8GB RAM
価格約11,000〜15,000円
主な用途画像処理、AI、GUI付きアプリ、Webサーバ
主な開発言語Python / C / C++ / Node.js など

Cortex-A76×4 / 2.4GHz4GB/8GBのLPDDR4XRaspberry Pi OS(Linux)上で一般PC同様にPython/C/C++/Node.jsなどが動作します。カメラ/ディスプレイ/PCIe-SSD/USB3/デュアル4Kなど周辺も非常に強力です。

GPIOでマイコン的な制御もできますが、OSが間に入るため、リアルタイム性や超低消費電力は得意ではありません。「画像処理・AI・Web」+「GPIOでセンサーやリレー制御」といった複合用途で真価を発揮します。


用途別のおすすめ早見表(+開発言語)

「自分は何をしたいのか?」から逆引きできるように、用途と主な開発言語も含めた早見表にしています。

目的推しボード主な開発言語理由
まずは基礎から学びたいArduino UnoArduino(C++風)情報・教材が圧倒的。USB一本で書き込み。
安くて高性能・Pythonで始めたいRaspberry Pi PicoMicroPython低価格でSRAM豊富。MicroPython×UF2が快適。
IoT(無線/クラウド/スマホ連携)ESP32Arduino(C++)、ESP-IDF、MicroPythonWi-Fi/BLE標準。ネットワーク系が単体で完結。
激安で32bitに挑戦STM32 Blue PillC(STM32CubeIDE等)数百円。だが書き込み・環境構築は中級者向け。
Python中心で高機能を活かすFeather M4 ExpressCircuitPythonCircuitPython標準+高品位設計。
画像処理やAI、GUIも使いたいRaspberry Pi 5Python / C / C++ など小型PC。SBCとして別次元の処理能力。

セットアップの注意点(失敗しないポイント)

  • Arduino Uno:公式ボードは高品質・高信頼。互換機は安い反面、USB変換ICの違いでドライバが必要になったり、動作が不安定な個体もあるので注意。
  • Raspberry Pi Pico:最初はMicroPython+UF2が最短ルート。無線が必要ならPico Wを選ぶ。
  • ESP32:ボードごとのピン配置フラッシュ容量に注意。Arduino/ESP-IDF/MicroPythonのどれで行くか最初に決め、環境をコロコロ変えないほうが迷いにくい。
  • STM32 Blue Pill:ST-LINKUSB-UARTを用意。電源/クロック設定でつまずきやすいので、信頼できる手順書や解説記事をよく読んでから進める。
  • Feather M4:まずはCircuitPythonで動かし、必要になったらArduino/C++へ広げるのがおすすめ。FeatherWing拡張は相性が良く、配線レスで見た目もきれい。
  • Raspberry Pi 5:十分な電源(5V/5A推奨)放熱を確保。OSイメージは公式Imagerで作成し、最初は公式Raspberry Pi OSから始めるとトラブルが少ない。

「Picoはどんな立ち位置?」の結論

Raspberry Pi Picoは、

  • 価格:数百円と激安
  • 処理性能:133MHzデュアルコアで、入門〜中級の範囲なら十分余裕
  • メモリ量:SRAM 264KBで、Arduino Unoとは別次元の余裕
  • 学習のしやすさ:MicroPython対応&UF2でセットアップが簡単

というバランスが非常に良く、「最初の1枚」候補としてかなり強くおすすめできるボードです。

入門だけならArduino Unoの「鉄板感」は揺るがないものの、少し複雑な処理や余裕のあるメモリを求めるなら、Picoはかなり早い段階の“正解”になりやすいポジションにいます。

一方で、

  • 無線が必須:ESP32 or Pico W
  • Pythonで高品位・安心感重視:Feather M4
  • 最安で32bitを触りたい:Blue Pill
  • 画像処理・AI・デスクトップ用途もやりたい:Raspberry Pi 5

というように、用途によって最適解は変わります。この記事の表やグラフを見ながら、「自分がやりたいこと」に一番近いボードを選んでみてください。


📚 参考(仕様の要点まとめ)

  • Pico:RP2040(M0+×2)/ 133MHz / SRAM 264KB / Flash 2MB(標準)/ 無線なし(Pico WはWi-Fi/BLE)
  • Uno:ATmega328P / 16MHz / SRAM 2KB / Flash 32KB / 無線なし
  • ESP32:LX6×2 / ~240MHz / SRAM約520KB / 典型フラッシュ4MB / Wi-Fi+Bluetooth
  • Blue Pill:STM32F103C8 / 72MHz / SRAM 20KB / Flash 64KB / 無線なし
  • Feather M4:ATSAMD51J19 / 120MHz / RAM 192KB / Flash 512KB + 2MB / 無線なし
  • Raspberry Pi 5:Cortex-A76×4 2.4GHz / 4 or 8GB RAM / microSD or SSD / Wi-Fi+Bluetooth

コメント